ストーリーとペルソナシナリオの違い

 ブランドが目指すべき生活者の変化を描いたストーリーは、ペルソナの行動シナリオと似ていますが、以下の2点で大きく異なります。

・ペルソナシナリオが現状のペルソナの行動や気持ち、感情を記述してそれに対応した施策や企画を考えるという視点に立脚しているのに対して、あるべきジャーニーの設計はビジネスゴールを達成する為に現状のカスタマージャーニーをどの様に変化させるべきかという視点に立脚し、ブランドとターゲット顧客の関係性を新しく定義、設計する事を目指す。

 

・ペルソナシナリオが多くの場合定性的・経験則的に机上で作成されるのに対して、あるべきジャーニーの設計はデータドリブンで行われる。その為、作成したジャーニー(ストーリー)が、どの程度の規模の顧客に当てはまるか、「ストーリーのKGIやKPIに対する影響力、購買行動の変化力などが算出可能。

 

 あるべきカスタマージャーニーの設計は主に「購買前」、「購買時」、「購買後」の3フェーズで考えるのが基本となります。それぞれのフェーズで適したデータを取得してデータドリブンにあるべき変化を設計します。ビッグデータ、シングルソース、POS、アンケートなどデータソースが何であるかという事より、自然言語データと定量/数値データを適切に使い分け、仮説検証と実験、そして予測を繰り返す事が重要です。
 

​ブランドが目指すべきカスタマージャーニーの設計1 - 購買前

 購買前のフェーズのストーリー作りでは、ブランドを自分ゴト化してもらう為の動機づくりに重点を置きます。その際、

 

 ・どんな問題を顕在化させるべきか(どんな視点・気づきを与えるべきか)
 ・気づきがあった上で、どんな体験が理想なのか(自己実現欲求、ペルソナゴール)
 ・ブランドがどんな価値・解決法を提案するのか(理想の体験にUSPがどう貢献するのか)

 

の3点をセットで考えると良いです。特に重要なのが「顕在化させるべき問題」と「どんな体験が理想なのか」の2つを対象ブランドのUSPから逆算して決定する事です。USPは特定の課題を解決する為の製品・サービス要件です。シンプルに言えば、USPは「△△ができます」という機能です。しかし、セオドア・レビットの”ドリルと穴”の話にあるように、消費者はUSPが欲しいわけではなく、そのUSPによってもたらされる「自分にとっての良い状態」が欲しいわけです。そのためTOBEジャーニーのストーリーは、まず冒頭で「○○という問題が解決すると、□□というあなたにとって望ましい状態になります」という提案で興味を引き、その後「△△(USP)ならそれができます」と問題解決と理想体験の実現にUSPがどう貢献するのか、を説明する、という順番になります。

 従って、いかに「生活者視点での問題」とその問題が解決された後に「期待できる理想の体験」としてUSPを言い換えるか、が非常に重要です。これには実際にターゲットの現状のカスタマージャーニーから、USPが特定の問題を解決し、理想の状態に繋がった一連のエピソードを定性データとして抽出する事が効果的です。また、競合製品のカスタマージャーニーも参考になります。同一の問題に対して、競合の類似製品などのUSPが解決できなかった、不満が残ったエピソードなども自社のUSPを刺しこむヒントが隠されているからです。

 

 現在の広告戦略ではTVCMはあくまで認知拡大や好意、興味関心までをケアする為に用いられ、より詳細な情報はオウンドメディアや雑誌などに譲る(クロスメディアにおける各媒体に異なる役割を持たせる)という戦略も用いられます。この場合、TVCMなどのマス媒体、OOHなどの屋外媒体は理想やUSPの説明に終始するという訴求を行う事があります。しかし、生活者を購買に導くには、認知や自分ゴト化以降の段階で、ブランドが自分の生活にどう関係するかという関係性構築を行う必要が出てきます。ブランドと生活者の関係性を高めるストーリーを構築するには、その機能やUSPが解決する問題を、生活者の視点で語れる事は必須です。

​ブランドが目指すべきカスタマージャーニーの設計2 - 購買時

 自分ゴト化から購買までのフェーズでは、USPについて「納得」してもらう根拠を提供する事と、自社ブランドを「選択」してもらう際に起こる障害を排除する事を主眼に、購買へ導くストーリーを仕立てます。即ち

 

 ・ブランドが問題を解決し、理想の状態を実現してくれる「根拠」を与える視点
 ・いかに潜在顧客を逃がさないか、という「リテンション」の視点

 

の2点をジャーニーに組み込みます。まず前者は、USPのRTB(Reason to Believe)です。主に以下の4パターンが使われます。

 

 ・エビデンス
 ・エンドースメント
 ・リサーチデータ
 ・ブランドイメージ

 

 エビデンスは主に製品やサービスに紐付いた客観的な事実を告知する情報であり、商品属性、機能的な革新、仕組み、材料、輸送方法、製造工程、開発秘話など非常に広範な情報を含みます。エンドースメントは、専門家、オーソリティ、評価機関、民間企業のアワード、国の許認可など、ブランドが外部から与えられる承認、推薦、支持、根拠に基づくRTBです。リサーチデータは、「満足度○○%」「□□人の専門家が認めた」などエンドユーザーやプロの評価をデータとして収集し提供するRTBです。エビデンスやエンドースメントの根拠をデータで固める事で、RTBの客観的側面を強めているとも考えられます。ブランドイメージは、ブランドの歴史や実績、作り手や創業者の想いを引き合いに出す、またはブランドのパーソナリティを引き出すタレントを起用するなど、論理よりは感情に訴えるRTBです。

 

 後者の「リテンション」の視点は、購買ファネルにおける顧客維持の視点です。詳しくは「リテンションデザイン 顧客の離反、流出、競合スイッチ防止」に譲りますが、USPやブランドの問題解決能力に対する理解と、その先にある理想の状態への期待が高まっても、その他の外部的要因によりカスタマージャーニーが止まる事があります。例えば、機能に期待していても手入れやメンテナンスが気になる、自分以外の家族や友人でも使えるかどうかが気になる、子供やペットへの配慮はどうか等、手が止まる原因は多様に存在します。これらは各顧客の生活背景により変化する要因で、統計学では独自性と呼んだりします。カスタマージャーニーを軸にしたアプローチでは、これら生活者の独自性による購買への障害に対して、どのペルソナにおいて(ターゲット層において)、どのような障害がどのような原因で発生しているかをカスタマージャーニー上で特定し、対応するインサイトを見つけます。そして、それらのインサイトに基づいて適切な情報やコンテンツ提供を行う事で、購買前段階の潜在顧客の流出、カスタマージャーニーの停滞、競合へのスイッチを防止します。

​ブランドが目指すべきカスタマージャーニーの設計3 - 購買後

 購買後は、ブランドプロミスの実感を強化し、製品やサービスを生活の中に取り入れてもらい習慣化し、他者への推奨意向を育成、及び推奨の根拠となるコンテンツを提供していきます。即ち、

 

 ・ブランドプロミス通りの性能・効果の実感
 ・生活ゴト化、習慣化の促進

 ・実体験に基づき、かつ特定のUSPを伴う他者への推奨

の3点を設計して、TOBEジャーニーを完成させます。

<購買後の認知的協和を促進させる>

 まず購買した製品の使用感や体感が、マーケティングコミュニケーションで言っている通りである(乖離していない)と実感してもらう必要があります。製品自体の性能に依る部分が大きいのは否めませんが、購買後のコミュニケーションでは「モノの性能を訴求する」より、「コトの体験が向上している」という認知的協和を高める事に焦点を置きます。つまり、モノ自体の効果・効用がより実感できるシーンや象徴的なイベントを取り上げて、「こういう時なら、確かに!」と納得してもらう事で、購買後の認知的協和を促進します。

 これには、購買者のカスタマージャーニーの分析が役立ちます。即ち、USPが特定の問題や課題をどの様なシーンで解決し、生活者にどのような良い状態をもたらしたのか、というプロセスを収集します。そして、その中から特に他のターゲットの共感を喚起する力が強いシーンを特定します。この特定には定量データを利用します。
 

<生活ゴト化、リピート促進、LTV向上>

 購買がトライアル1回だけで終わらないようにするためには、ブランド(モノ)を使う事を生活の一部として習慣化してもらう為のコミュニケーションが効果的です。そのブランドが提供する価値が生活の中に無いと違和感を感じるレベルへ昇華させるわけです。これを「生活ゴト化」と言い、リピート購買を促し、ブランドのロイヤルユーザーになってもらう為には非常に重要なコミュニケーションとなります。顧客のLTV(生涯価値)を大きくする為に重要、とも言えるでしょう。

 しかし、新しいモノがすぐに生活の一部となるわけではありません。「こういう場合はどうするのだろう?」「メンテナンスは?」「しばらく間が空いて忘れてしまった」「面倒くさくなってしまった」など、生活ゴト化を妨げる障害は生活者側の様々な都合で発生します。ここでのマーケティングコミュニケーションの役割は、使い続けてもらう為に適切な提案、チップス、ヒント、手順、ポイント、コツなどの情報を断続的に提供する事です。具体的には、購買後のカスタマージャーニーを分析して、どの程度の規模の人がどのような障害で使用頻度や時間、熱意や動機が低下しているかを特定し、適切な情報を提供していきます。いわば購買後のリテンションです。
 

<実体験に基づいた、特定のUSPを伴う他者への推奨>

 そして購買したブランドを他者に推奨するフェーズです。これは上記の生活ゴト化と同時に考えてもよいです。この時のストーリーでポイントになるのが、

 ・推奨者自身の実感に基づく推奨を引き出す事
 ・主体的・自発的な推奨を引き出す事

 

の2つです。最初の実感に基づく推奨を引き出すポイントは<購買後の認知的協和の促進>及び、<生活ゴト化>のストーリーメイキングと同じです。2つ目の主体的・自発的な推奨を引き出すには、推奨者の頭の中で、推奨する「理由」が顕在化されている必要があります。これに対してブランドが提供すべきは、同様のバックグラウンドや経験を持つ生活者同士が特定のテーマについて自発的な推奨、アドバイスを交換しあえる場(プラットフォーム)と、自社ブランドの「どの側面についてどう言うと、被推奨者の役に立つか、喜ばれるか」という情報です(もちろん性能や機能、効用を実感し納得している事が前提です)。

 

 前者に関してはその「場」や「チャネル」だけを用意する、という点が大事です。企業やブランド名が前面に出すぎず、あくまで生活者同士が役に立つアドバイスを交換する場を提供している、という体を保つことが重要です。言うまでもないですが、”言わされている感”のある推奨、いわゆるステマとして捉えられる口コミ等は購買行動を促進するどころか、悪いケースでは炎上しブランド毀損のリスクも伴います。

 

 後者は、ブランドやUSPについて、顧客が語りやすくする為の支援コンテンツ(情報)の提供です。狙いはブランド自体をバイネームで推奨してもらうというより、むしろブランドのUSPがもたらしてくれる良い事を話しやすい状態に導く事です。その為には、推奨者本人が「~だから、このブランドがいいよ。」と推奨の理由を認識、納得している状態へ育成する必要があります。具体的には、生活ゴト化した購買者、もしくは推奨意向を持っている購買者のカスタマージャーニーから、何故自分にとってそのブランドが良いのか、自分にとってどのような良い事をどうもたらしてくれるのか、という因果関係に言及したビリーフ(信念、生活者の考え方)を抽出し、データで推奨影響力の強さを算出します。これらの過程を経て、どのUSPをどのようなロジックで推奨してもらうべきか(推奨時のRTB)、という狙いをデータドリブンで決めます。
 

 以上により、USPを起点として、顕在化させるべき問題、問題が解消された理想の状態への欲求、USPが理想の状態に繋がる事に納得している状態で、生活者個々人の生活背景に起因する購買への障害が排除され、購買後は、使用実感に基づいて生活の中にブランドが根付き、他者へのUSPの推奨が自然に行われる、というストーリーが決まります。最後に、設計したTOBEジャーニーがストーリーとしてちゃんと一貫性が通っているか、マーケターやプランナーが論理的、感覚的に確認します。同時にデータを使って、設計したカスタマージャーニーが全体として、どの程度の購買行動、潜在顧客の規模、売上や集客などを喚起できるか予測し、KGIへの貢献を評価します。

​ブランドが目指すべきカスタマージャーニーの設計4 - 検証と予測

​カスタマージャーニーの教科書

7章

ブランドが目指すべき

カスタマージャーニーの設計と認識変化

 カスタマージャーニーを軸にプロモーションやマーケティングコミュニケーションを考える際は、ブランドが目指す、あるべきカスタマージャーニーを実現する為に必要なインサイトや価値提案、媒体の果たすべき役割、媒体間導線などを考えていきます。

 

 その為にまずは、マーケティングコミュニケーションにより、生活者の認識をどう変化させていき購買に至らしめるか、または生活の一部として取り入れてもらうか、という「ブランドが目指すべき生活者の変化」を描いたストーリーを設計し、潜在顧客に対して起こすべき認識の変化を一連のストーリーに仕立てて、そのストーリーの尤もらしさ、一貫性、顧客規模、購買行動の変化力などを検証する作業を行います。